「N.TUCZEK(ニコラス・タックゼック)」というブランドをご存知でしょうか?
すでに閉店しているためあまり知られていませんが、一部マニアの間ではその希少価値の高さから「幻の靴」と呼ばれています。
著名なビスポークの靴職人がニコラス・タックゼックの靴をディスプレイとして飾るなど、靴職人も憧れるような靴です。
幸運にも一足入手することができたので、幻の靴と呼ばれるその魅力に迫りたいと思います。
幻の靴、「N.TUCZEK(ニコラス・タックゼック)」
ニコラス・タックゼックは、ロンドンにあったビスポークの専門店です。
1969 年にジョンロブに吸収される形で閉店し、今はもうありません。
ちなみに、最高峰の英国靴「George Cleverley(ジョージ・クレバリー)」の創設者であるジョージ・クレバリー氏は、なんと 38 年間ニコラス・タックゼックに勤めていたそうです。
実際に、ニコラス・タックゼックとジョージ・クレバリーのビスポークを並べてみると、木型の形状が似通っているように思います。
エレガンスな佇まい
靴の全体を見回してみると、堅牢な英国靴のイメージとは一味違ったエレガンスさが見てとれます。
エレガンスに見える理由の一つに、ソール周りの作りが挙げられます。
コバとソールの厚さは約 5mm ほどで、ほかの靴と並べると一目で分かるほどソールが薄く作られています。
ソールを薄くすることで、英国靴に見られる重厚な感じがなく、華奢に仕上がっています。
さらに、出し縫いのステッチの細かさにも目を引かれます。
計測してみたところ、1cm あたり約 7 針ほどの間隔で縫われていました。
靴作りに携わらなければなかなか想像しづらいかもしれませんが、これは縫うのに手間のかかる非常に細かいピッチです。
このソールの薄さと出し縫いの細かさが、靴全体の印象を繊細でエレガンスな佇まいにしています。
手の込んだ作り
次は、アッパーを見てみましょう。
よく見ると、革を裁断した端面が見えないように工夫がされています。
アッパーは革をパーツに切り分け、つなぎ合わせて作られます。革を切り分けたときの端面は、そのままの状態(すこし角が立っている状態)にされることがほとんどです。
しかし、この靴では革の端面が見えないように丸い形状に折り曲げられています。
このちょっとした違いによって、どこにも角がないすっきりとした見た目に仕上がっています。
アッパーだけでなく、インソールにも特徴があります。
下の写真を見るとわかりますが、履いたときに足の土踏まずを覆うような形をしています。
土踏まずのアーチをサポートし歩きやすくするための工夫でしょうか。
いつか自分が作る靴にも取り入れてみたいと思います。
この一足しかないので確かなことは分かりませんが、バランスのとれた木型や繊細で丁寧な作りが、この靴を「幻の靴」と言わしめる理由なのかもしれません。